日本経済の成長に不可欠なESG投資とTCFD ー Sansan Innovation Project 2019(1)
2019年3月14日-15日、ザ・プリンス パークタワー東京にてSansan株式会社によるビジネスカンファレンス「Sansan Innovation Project 2019」が開催されました。
テクノロジーの進化や新たなソリューションの誕生により、組織は変革を迫られる時代。変化に対応し、また変化を生み出すために必要なことは何か。本カンファレンスは、あらゆる分野の専門家や最前線で活躍するプレイヤーが集結し、組織を次のステージへと導くための様々なイノベーションについて紹介することを目的としています。
「イノベーション」をテーマにしたビジネスカンファレンスで、なんとSDGsのセッションが3つも行われました。これが当たり前の世の中にしないといけない、そのためにこのSustainability Plus+を立ち上げたものの、やはりまだ「SDGsはきれいごと」と捉える人も少なからずいると思います。ですので、今回「イノベーション」「ビジネス機会」のキーワードとしてSDGsセッションが設けられたことを大変嬉しく思います!この流れが続いて、大きなうねりとなって社会を動かしていきたいですね。
さて、ここからはSDGsセッションのレポートをお届けします。
【パネリスト】
公益財団法人 国際金融情報センター 理事長 玉木 林太郎 氏
一般社団法人 日本投資顧問業協会 会長/日本公認会計士協会 理事 大場 昭義 氏
環境省 大臣官房 環境経済課 環境金融推進室長 芝川 正 氏
【モデレーター】
モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社 顧問/Sansan株式会社 シニアアドバイザー 安井 肇 氏
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まず、モデレーターの安井氏が、今年1月に開催された世界経済フォーラム(通称ダボス会議)で、安倍総理がG20サミット(今年6月、日本開催)で気候変動も主要テーマとなると言及したことに触れ、環境省のESG金融懇談会の立ち上げや昨年12月のTCFDガイダンス発行も踏まえ、「ESGやTCFDをめぐる動向、政府の取り組み、企業の対応に役立つようなセッションにできたら」として、セッションが始まりました。
玉木氏が強調していたのは、「A Sense of Purpose」(目的意識)。
世界最大の資産運用会社、米ブラックロックのラリー・フィンク会長が日本を含む世界の企業経営者に送った2018年の年次レターのタイトルです。レターの中で、フィンク会長は、企業が持続的に繁栄するために、財務的パフォーマンスを上げるだけではなく、社会に価値を生み出すことを求めています。企業は利益を最大化することや株主の利益だけ考えていればいいのか、という1970年代以降の企業の考え方へのアンチテーゼとして、大きな話題となりました。2019年のレターでも、更に「Purpose」の重要性を強調し、これが長期的に企業価値を創造するためのカギだとしています。
社会貢献に強い関心を示すミレニアル世代が、アメリカではすでに労働人口の35%を占めることから、ミレニアル世代が消費者としても投資家としても主役となってくる、と玉木氏。そのため、投資におけるESGでの企業評価が益々重要になってくると言われています。
ESG投資は、非財務情報の評価が中心と思われています。しかし玉木氏は、「ESG投資は、財務情報としては直接的に表れにくい様々な非財務的な情報や価値が、時間の経過とともに売り上げや利益などの財務数値に転化していくことを想定しているので、将来の財務情報と言える。ESG投資は長期的なリターン最大化を目的としたもので、理念的な投資ではない」と言います。
世の中の流れが益々ESG投資拡大に向かう中で、企業は発信力を高めて企業価値向上に努めなければならない、と呼びかけました。
大場氏は、「この30年間の経済停滞解決のため、現在、投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すインベストメント・チェーンの好循環に向けた取り組みが進められている。企業と家計、投資家の間でお金が循環するのが望ましいが、日本はマイナス金利で株価も低いため、家計が機関投資家に投資しても、リターンが期待できないという特殊な環境がある。だから家計は、企業からの所得を得るしかない。そのため、コーポレートガバナンスで企業がしっかり稼いで、家計にリターンを返すということに注力している。」と説明。
最後に、「SDGsとパリ協定によって世界は大きく舵を切ったが、世界がやっているから日本もやらなきゃという姿勢ではいけない。日本の経済が停滞しているので、この分野でリードを取っていくという気概を持つことが重要。今後、SDGsという考えを企業経営に組み込んだ企業が、結果としてリターンが上がるという時代がやってくるのでは。いかにESGを組み込んで経営をリードするかが企業に問われる。」と聴衆に投げかけました。
平成28年から内閣総理大臣を議長とする「未来投資会議」という政策会議が開かれていますが、昨年6月の第17回「未来投資会議」では、「エネルギー・環境投資を通じた成長の実現について」がテーマの一つとして議論されました。ここで安倍総理が、「もはや温暖化対策は、企業にとってコストではない。競争力の源泉である。」と述べられたとのこと。政府としても、温暖化対策、気候変動問題を新たなビジネスの機会と捉え、グリーンファイナンスの活性化に取り組んでいるそうです。
環境省では、平成30年1月からESG金融懇談会を開いて、
(1)ESG投融資の加速化や普及の支援
(2)情報開示の促進や企業と投資家の対話を目的としたESG対話プラットフォームの設置
(3)ESG企業を通じた企業の行動変容の促進
などを目的として、今後どのようにESG金融を進めるかを、金融関係者と議論しています。
芝川氏は「リーダーシップの発揮が重要。政府としても、方向性をしっかり打ち出していきたい」と述べ、カーボンプライシングの促進なども視野に入れ、国内のESG金融を推進していくと締めくくりました。
非金融の一般企業はどのように対応したらよいのか?
SDGsやTCFDの流れを日本企業はどう受け止め、どう対応すべきか?
国際金融情報センター 玉木氏
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Sansan Innovation Project 2019(2)
「SDGs×デジタルから考える資本主義の未来」セッションのレポートはこちら
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テクノロジーの進化や新たなソリューションの誕生により、組織は変革を迫られる時代。変化に対応し、また変化を生み出すために必要なことは何か。本カンファレンスは、あらゆる分野の専門家や最前線で活躍するプレイヤーが集結し、組織を次のステージへと導くための様々なイノベーションについて紹介することを目的としています。
「イノベーション」をテーマにしたビジネスカンファレンスで、なんとSDGsのセッションが3つも行われました。これが当たり前の世の中にしないといけない、そのためにこのSustainability Plus+を立ち上げたものの、やはりまだ「SDGsはきれいごと」と捉える人も少なからずいると思います。ですので、今回「イノベーション」「ビジネス機会」のキーワードとしてSDGsセッションが設けられたことを大変嬉しく思います!この流れが続いて、大きなうねりとなって社会を動かしていきたいですね。
さて、ここからはSDGsセッションのレポートをお届けします。
セッション1 SDGsが日本企業の変革を迫る
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公益財団法人 国際金融情報センター 理事長 玉木 林太郎 氏
一般社団法人 日本投資顧問業協会 会長/日本公認会計士協会 理事 大場 昭義 氏
環境省 大臣官房 環境経済課 環境金融推進室長 芝川 正 氏
【モデレーター】
モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社 顧問/Sansan株式会社 シニアアドバイザー 安井 肇 氏
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まず、モデレーターの安井氏が、今年1月に開催された世界経済フォーラム(通称ダボス会議)で、安倍総理がG20サミット(今年6月、日本開催)で気候変動も主要テーマとなると言及したことに触れ、環境省のESG金融懇談会の立ち上げや昨年12月のTCFDガイダンス発行も踏まえ、「ESGやTCFDをめぐる動向、政府の取り組み、企業の対応に役立つようなセッションにできたら」として、セッションが始まりました。
ESG投資の拡大と"A Sense of Purpose"
次に、国際金融情報センターの玉木氏が、「転換期の企業と投資」と題して講演。2月20日のESG経営フォーラムでの講演(記事はこちら)と同じく、「現在は、気候変動、デジタル化、人口動態など私たちを取り巻く世界で激しい地殻変動が起こっている」とし、この3つに立ち向かうために企業はどう対応すべきか、投資家はどこに着目すべきか、についてTCFDに触れつつ説明されました。玉木氏が強調していたのは、「A Sense of Purpose」(目的意識)。
世界最大の資産運用会社、米ブラックロックのラリー・フィンク会長が日本を含む世界の企業経営者に送った2018年の年次レターのタイトルです。レターの中で、フィンク会長は、企業が持続的に繁栄するために、財務的パフォーマンスを上げるだけではなく、社会に価値を生み出すことを求めています。企業は利益を最大化することや株主の利益だけ考えていればいいのか、という1970年代以降の企業の考え方へのアンチテーゼとして、大きな話題となりました。2019年のレターでも、更に「Purpose」の重要性を強調し、これが長期的に企業価値を創造するためのカギだとしています。
社会貢献に強い関心を示すミレニアル世代が、アメリカではすでに労働人口の35%を占めることから、ミレニアル世代が消費者としても投資家としても主役となってくる、と玉木氏。そのため、投資におけるESGでの企業評価が益々重要になってくると言われています。
ESG投資への対応について述べる玉木氏 |
世の中の流れが益々ESG投資拡大に向かう中で、企業は発信力を高めて企業価値向上に努めなければならない、と呼びかけました。
失われた30年を取り戻すには
続いて、日本投資顧問業協会の大場氏は、「過去30年は、戦争を起こさなかった30年でもあり、見事なまでに日本の経済が停滞した30年でもあった。」として、過去30年の日本経済の停滞について4つの事実を紹介します。- 世界の株式市場の動向を比較すると、米SP500、英FTSE、独DAX、香港ハンセン指数は右肩上がりであるのに対し、TOPIXだけこの30年間ずっと横ばいという結果。
- スイスの国際経営開発研究所(IMD)が毎年発表している「世界競争力年鑑」での日本の順位の推移をみると、平成がスタートした1990年代、日本は世界最高の評価だった。それが今や25位。日本の競争力を海外はこのように見ている。
- 1人当たり名目GDPの国別ランキングの推移(IMF統計)でも、1990年代は上位2位~8位の間で推移。ところが、2017年は25位。これは、1年間日本人が働いてつけた付加価値はどの程度だったかという指標、つまり稼ぐ力。今やアジアの中でも香港やシンガポールに負けている。
- 日本国債の格付けの推移でも、30年間でトリプルAからシングルAに下がった。放置しているとシングルAも維持できないだろう。
インベストメント・チェーンについて説明する大場氏 |
最後に、「SDGsとパリ協定によって世界は大きく舵を切ったが、世界がやっているから日本もやらなきゃという姿勢ではいけない。日本の経済が停滞しているので、この分野でリードを取っていくという気概を持つことが重要。今後、SDGsという考えを企業経営に組み込んだ企業が、結果としてリターンが上がるという時代がやってくるのでは。いかにESGを組み込んで経営をリードするかが企業に問われる。」と聴衆に投げかけました。
政府もESG投資を推進
環境省の芝川氏は、政府の取り組みについて紹介されました。平成28年から内閣総理大臣を議長とする「未来投資会議」という政策会議が開かれていますが、昨年6月の第17回「未来投資会議」では、「エネルギー・環境投資を通じた成長の実現について」がテーマの一つとして議論されました。ここで安倍総理が、「もはや温暖化対策は、企業にとってコストではない。競争力の源泉である。」と述べられたとのこと。政府としても、温暖化対策、気候変動問題を新たなビジネスの機会と捉え、グリーンファイナンスの活性化に取り組んでいるそうです。
環境省では、平成30年1月からESG金融懇談会を開いて、
(1)ESG投融資の加速化や普及の支援
(2)情報開示の促進や企業と投資家の対話を目的としたESG対話プラットフォームの設置
環境省芝川氏 |
などを目的として、今後どのようにESG金融を進めるかを、金融関係者と議論しています。
芝川氏は「リーダーシップの発揮が重要。政府としても、方向性をしっかり打ち出していきたい」と述べ、カーボンプライシングの促進なども視野に入れ、国内のESG金融を推進していくと締めくくりました。
大きな時代の転換点を生き抜くには?
続いて、モデレーター安井氏からの質問に3者が回答するという形式でパネルディスカッションが進められました。SDGsやTCFDの流れを日本企業はどう受け止め、どう対応すべきか?
(モデレーター 安井氏からの質問)
国際金融情報センター 玉木氏
- 脱炭素へ向かって、エネルギー源が変わる。エネルギー源が変わるということはビジネスの在り方が丸ごと変わる可能性があるということ。
- 世代間でとらえ方に大きな差。SDGsに含まれるテーマに経営者が敏感に対応していないと、企業のReputationに影響が出る。ブランド力が急速に落ちていき、採用活動にも影響するだろう。若い世代の優秀な人に入社して欲しいならば、ESGにどの程度対応しているか、を発信する必要がある。その企業のPurpose(目的)が、ESGやSDGsの方向性と合致してこそ、若い人たちが、入社してみよう、製品を買ってみようとなる。
日本投資顧問業協会 大場氏
- なぜ創業したのか?何らかの社会課題を解決したいという思いがあって創業したはず。SDGsはすなわち、持続可能な社会を作ろうというもの。TCFDは気候変動に関する情報をディスクローズしましょうというもの。これらは新しいものではなくて、当たり前のもの。だからこそ今一度原点に戻るのが大事ではないか。
- 気候変動はリスクではない、人に言われたからやるものではない。社会の大きな課題を解決する、ビジネスチャンスとしてみよう。損害保険金として支払われたお金を見ると、洪水、台風、地震の被害で、毎年1兆円を超える。これらの解決は社会の大きな課題になっている。
日本企業は、SDGs・TCFD対応(中長期的テーマ)をどう戦略に落としたらよいか?
それを評価する金融機関、資本市場をどう育てたらよいか?
国際金融情報センター 玉木氏
- 中長期テーマだからと言って、判断を先延ばしにするのは危険。日本企業は3年スパンで戦略を考えることが多いが、30年の一部の3年、60年の一部の3年などと自分たちの3年間を位置づけ、中期経営計画を立てるべき。また、それを外部の評価機関や投資家が見えるようにディスクローズを進めていくことが大事。
- SDGsやTCFDはつまりサステナブル(持続可能)な概念であるので、日本の企業自体がサステナブルに社会に必要とされるためにどうするか、から考えるべき。SDGsやTCFDへの対応としてではなく、自らがどう必要とされ続けるか、を考える。
- また、評価する側の金融機関をどう育てていくかという課題もある。投資家や評価機関は、短期評価でやってきたことを反省し、中長期的な目線で社会に必要にされるもの、という目線で論点整理をすることが大事だろう。
環境省 芝川氏
- 断片的なところからで構わないので、できるところから情報開示を進めて、投資家の目にさらされ、エンゲージメント活動などにも触れ、ブラッシュアップしていくのが大事だろう。例えば、水を使う企業であれば、水の使用量を抑える、水質を改善するなど出来るところから始める。
- 日本では、評価する側の金融機関が、まだESGに対応できていない部分もある。将来キャッシュフローを見るような目利き力を育てていくことを環境省としても応援していきたい。
最後に、聴衆へのメッセージを
国際金融情報センター 玉木氏
- 人と技術とエネルギーが大きく変わっていく。そのような転換点に際し、日本のように精緻なシステムを作り上げた経験があるとハンディにもなる。周囲がやっていないからといって安心しないで欲しい。中国やアフリカ、ブラジルなどのびのびとした環境でビジネスを行う国にすぐ追い越される。
- 3つのキーワード。(1)流行:SDGsやTCFDなどの概念を流行で終わらせてはいけない。10年後には、このようなSDGsセッションを開いても誰も来ない、それが当たり前になっている、そんな社会を作らないといけない。
(2)自覚:企業自ら自覚できるか。SDGsやTCFDをどのように自社で捉え、サステナブルなビジネス構築に注力できるか。
(3)認識:リスクではなく新しいオポチュニティー(機会)。SDGsやTCFDは、企業に新しい機会を提供するものと捉えよう。
- 大きな時代の転換点にあり、パラダイムシフトが起こっている。他人ごとではなく自分ごととして捉えることが重要。自分の生活から何ができるかを考え、関係者を巻き込んで、動かしていく。「持続可能な社会に向けて」というと漠然としたテーマに思えるが、身近なことと捉えて取り組んでいこう。
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Sansan Innovation Project 2019(2)
「SDGs×デジタルから考える資本主義の未来」セッションのレポートはこちら
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