投資家と企業の対話でESG投資を加速化ー環境省「ESG対話プラットフォームシンポジウム」



3月19日、環境省主催の「ESG対話プラットフォームシンポジウム」が開催されました。


環境省は、環境情報を中心とした対話を行う「環境情報開示基盤(ESG対話プラットフォーム)」の実証事業を進めています。これは、環境活動に積極的に取り組む企業が投資家等から適切に評価され、資金が流れる持続可能な社会の構築を目指し、企業と投資家等が集うことを目的としたものです。

環境省によるESG対話プラットフォームの実証事業(環境省資料より)
今回のシンポジウムでは、この実証事業の成果報告とESG対話プラットフォームを活用して直接対話を行った企業と投資家によるパネルディスカッションなどが行われました。

日本政府も後押しするESG投資とTCFD

環境省の中井徳太郎氏(総合環境政策統括官)による冒頭挨拶では、「2015年が時代の転換点だった」として、2015年9月に「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が国連で採択され、SDGsが誕生したこと、そして12月には「パリ協定」が採択され、ゼロエミッションに向けた各国の削減目標や長期戦略の策定などが求められるようになったことに言及しました。

これは、環境・社会・経済が総合的にうまくいく状況を描き、新たな文明社会を目指して、大きく考え方を転換していく、パラダイムシフトをしていくものです。

日本政府もこれに呼応し、長期戦略のベースになるものとして、昨年4月に「第五次環境基本計画」を閣議決定しました。その中で、各地域の資源を有効活用しながら経済を回していく自律分散型の社会構築を目指す「地域循環共生圏」というコンセプトを立て、新たな取組を始めています。
「地域循環共生圏」モデル図(環境省資料より)
このコンセプトを裏支えするものとして、ESG投資を位置付けていると、中井氏は言います。
脱炭素社会、持続可能な社会への戦略的シフトこそが我が国の競争力と新たな成長の源泉であると捉え、政府も(1)ESG投融資の加速化・普及の支援と(2)ESG情報をめぐる充実した対話の促進を後押ししているそうです。 

今回のシンポジウムのメインである「ESG対話プラットフォーム」の整備も(2)の一環です。その他、TCFDに対応する環境報告ガイドラインの改定TCFDを活用した脱炭素経営戦略の策定支援なども行っているとのこと。「世界の大きな変化の中で企業がチャンスをつかんでいくことを期待している。環境省も手助けしていきたい」と冒頭挨拶を締めくくりました。


TCFDを活用した脱炭素経営戦略の策定支援」については、環境省の奥山祐矢氏(地球環境局 地球温暖化対策課長)から、別途、事業報告がありました。2018年度は、公募で3セクター6社が選ばれ、TCFDシナリオ分析のトライアルを実施したそうです。


(2018年度 シナリオ分析支援事業 対象企業)

エネルギーセクター 伊藤忠商事株式会社
運輸セクター    株式会社商船三井、日本航空株式会社、三菱自動車工業株式会社
建築/林業セクター 住友林業株式会社、東急不動産ホールディングス株式会社

TCFDのシナリオ分析の実践で企業が困る点は

(1)シナリオ分析実施の際のシナリオとそれに紐づくパラメータが企業のみでは取得が難しい
(2)企業ごとに、シナリオ分析実施可能なプロセスや巻き込む部署等が異なり、シナリオ分析の実施のレベル感を画一的に決められない 
(3)シナリオ分析実施結果を、社内の経営陣に理解してもらうには、労力が必要
という3点が大きくあるそうで、環境省では今後も支援事業を通じて、シナリオ分析の実践を通じた、気候変動対応と企業経営とのより良い融合を支援していくと述べていました。

地域ごとの文脈を理解して効果的な情報開示を

続く基調メッセージでは、吉高まり氏(三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社 環境戦略アドバイザリー部 チーフ環境・社会(ES)ストラテジスト)が「気候変動がもたらすビジネスへの影響及びTCFDの動向~ESGの視点から」と題して講演。
吉高まり氏

ESG投資という言葉が出てくる前から環境×金融というバッググラウンドを活かして両者の架け橋となるべく奔走されてきた吉高氏は、「G(ガバナンス)は多くの企業が対応できるようになってきた。これからはE(環境)だ」と述べます。


GPIFへのESG投資の中で、E(環境)テーマ指数として採用されているS&P/JPX カーボン・エフィシェント指数は、同業種内で炭素効率性が高い企業と温室効果ガス排出に関する情報開示を行っている企業の投資ウエイトを高めた指数となっています。

これに関して、吉高氏は、「企業の温室効果ガス排出量やクリーン技術関連製品の売上高の開示が不十分」と指摘し、「日本は、公害の歴史があり、取り組み自体は行っている。けれどもディスクローズができていなくて、欧米に遅れをとっている」として、「経営のど真ん中でどのような環境情報をIR向けに公開するかが大事」とメッセージを送りました。

吉高氏の講演で興味深かったのは、ヨーロッパとアメリカのESG投資に対する視点の違いです。

  • アメリカでは、気候変動をメインにESGを使って新たなビジネスを生み出そうとする考えがあるそうで、「マーケットドリブンな視点」と吉高氏は言います。
  • 一方、ESG発祥の地ともいえるヨーロッパは、キリスト教の教義から外れる事業投資は排除するというネガティブスクリーニングから始まったこともあり、宗教的・歴史的・哲学的な考えに根差しているとのこと。
非財務情報開示の基準についてもその差は明確で、
  • アメリカは、SASB(Sustainability Accounting Standards Board:サステナビリティ会計基準審議会)が非財務情報の開示に関する会計基準を策定・公表。
  • 一方、ヨーロッパでは、「持続可能な金融に関するハイレベル専門家グループ(HLEG:High-Level Group on Sustainable Finance)が、現在EUのサステナブル投資関連の規制を策定中。パリ協定とSDGsのリスクの透明性を高めることを目的としていて、投融資関係者が注目しているとのこと。
アメリカ会計基準ヨーロッパ規制、ここにも考え方の違いが表れている。」インターナショナルにご活躍されている吉高氏ならではの分析が聞けました。


また、世界中の投資家と日々意見交換を行う吉高氏は、投資家が求めていることについて、会場に詰めかけた企業のCSR/IR担当にアドバイスをしました。

(1)ESG投資運用会社の評価軸を見てみると、環境報告書や統合報告書で行っているディスクローズはG(ガバナンス)の情報であることが分かる。E(環境)とS(社会)の情報は、将来のG(ガバナンス)の情報になる。EとSの部分で、どのようなリスクや希望があるか、という情報を投資家は欲しがっている

(2)SDGsの市場規模が試算されている(下図)ので、自社でどれくらいとっていけるのかを考えてみて欲しい。そして、これを使って投資家と対話を試みて。
(3)投資家は、企業/経営者が思考停止することなく常に考えて経営しているのかを知りたがっている。SDGsをあるべき姿のマイルストーンとして、そこに到達するために今何をすべきかを経営計画として考え、あるべき姿と現状のギャップを見出し、適切に開示していって欲しい。
SDGs市場規模試算(デロイトトーマツWebサイトより)

最後に、気候変動はリスクではなくビジネス機会」として、既に取り組みを進めている企業の例を紹介し、「情報開示を恐れることなく、ビジネス機会として、どんどん情報発信をしてほしい。それが一番の防衛策になる。投資家はTransitionを起こしたいと思っているので、ぜひ投資家と建設的な対話をしてほしい。」と聴衆にメッセージを送りました。

その後は、ESG対話プログラムに参加した企業と投資家によるパネルディスカッションに移ります。
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【パネリスト】
(企業側)
株式会社クボタ 生産本部 環境管理部 環境推進グループ担当課長 森田 慎吾氏
第一三共株式会社 総務本部 CSR部 CSRマネジメントチーム 畠山 美佐氏
(投資家側)
アセットマネジメントOne株式会社 責任投資部 チーフESGアナリスト 櫻本 恵氏
三井住友アセットマネジメント株式会社 企業調査グループ スチュワードシップ推進室長 齊藤 太氏
株式会社りそな銀行 アセットマネジメント部 責任投資グループ グループリーダー 松原 稔氏
【コメンテーター】
環境監査研究会代表幹事 後藤 敏彦氏
【モデレーター】
株式会社NTTデータ経営研究所 八間川 結子氏
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ESG対話プログラムに参加し、投資家との直接対話を実施した2社の感想は、
  • これまでは、総務、IR、CSR・環境部門が別々に機関投資家との対話を実施してきたが、ESG対話プログラムの機会を活用して連携が実現。連携して機関投資家との直接面談を実施し、自社の取り組みに関する情報開示のアドバイスを得えられた。(クボタ・森田氏
  • 投資家と直接対話をすることで、投資家が自社をどうみているのかがよく分かった。また、統合報告書で経営とESGが分離している、製薬企業のESG情報では医療アクセスとガバナンスに注目している、などの具体的な指摘を得られた。(第一三共・畠山氏
続いて、投資家からは、ESG対話プログラムの参加やESG対話プラットフォームを活用した感想が共有されました。

アセットマネジメントOne・櫻本氏

  • 投資家から企業へのアクセスと比較して、企業から投資家へのアクセスは限られているように感じるので、ESG対話プログラムはその意味で有益
  • プラットフォームを使った対話は有益な事例が多いとの印象だが、一度プラットフォームを使った会社と2回目以降使う必要があるのか、という側面がある。プラットフォームの在り方は考えていく必要があるだろう。
三井住友アセットマネジメント・齊藤氏
  • ESG対話プログラムに参加して、ESGに特化した個別面談の件数が増加した。対話が増えて、投資判断につながる情報量が増えたことは、投資家としてプラスと考える。従前から様々なエンゲージメントを行っているが、ESGはメニューの一つでしかなかった。今回は、双方がESGに特化する意識があり、中身の濃い対話が出来た。
りそな銀行・松原氏
  • ESG相談会は、中身の濃い対話が出来た。ESG非財務情報を重視する長期投資家として、企業と直接対話ができたのは大変貴重。特にESGは大企業中心になりがちだが、それ以外の中堅上場企業とも対話が行えたのは良い機会だった。
その後、モデレーターの八間川氏や会場からの質問に答える形で議論が進みます。


持続的な対話を実現させるためには何が必要か?

アセットマネジメントOne・櫻本氏
  • 企業と投資家の対話は、人と人の対話が継続するか、と一緒。対話継続の鍵は魅力を感じるかどうか規模は小さくても、問題意識が高くて長期的に価値向上を図ろうとしている企業であれば魅力的に見える。企業側も、適切なアドバイスをしてくれる投資家かどうかなどが魅力ポイントでは。同じ問題意識を持っているかなども大事。また、面談時に、次回はこれについて話しましょう、という次につながるポイントを提示するのもポイントの一つ。
クボタ・森田氏
  • 企業側からすると投資家との対話は敷居が高い。継続的な対話のためには、何でも全て企業が答えられるわけではない、ということを理解して頂けると幸い。最初は簡単な質問から、そして徐々に対話のレベルを上げていくなど、ある程度企業に合わせて対話をしてもらえると大変助かる
  • まずは情報に対してのギャップを検証したい。他の部門も同様のニーズがあるはず。機関投資家と企業のギャップのすり合わせである、そのための対話であるということを、企業側も意識しておく必要があるだろう。
第一三共・畠山氏
  • 社内での継続対話の秘訣は、投資家からの対話を社内で共有すること。そしてPCDAを回していくことが大事。投資家から宿題を頂いて、それが完成したので会ってください、という形で次回の対話につなげるようにする。その意味でも、徐々にレベルを上げていくような宿題の出し方を、投資家にはお願いしたい。


直接面談を成功させるためには、何を企業が準備しておくとよいか?

りそな銀行・松原氏
  • 投資家に何を期待しているかを明確にした方がいい。投資家にも、長期投資家、個人投資家、機関投資家など様々な生態系があるので、投資家の特性をまず理解するのが大事。ESGというワードを直接言う投資家は長期投資家でも少ない。ESGの話をしたいならESGをしたいと明確にする。
アセットマネジメントOne・櫻本氏
  • 投資家に何を求めているか、この面談で何を知りたいか、などを事前に用意してほしい企業と投資家の問題意識が一致するかがエンゲージメントの成果。レベルの低さを懸念する企業もいるが、気にしなくてよい。どんどん声をかけて。
三井住友アセットマネジメント・齊藤氏
  • 投資家は投資判断のために対話をしたい。企業を理解したいというのが根底にある。普段の対話はIR担当と行っているが、ESGの話になるとCSR担当が出て来る。そうなった時に、IRとCSRで言っていることが異なることもある。一つの経営ポリシーのもとで動いているはずなので、企業経営として横ぐしを通した形で投資家に説明してほしい
ESGを社内で説得するには?

「企業の経営陣のESGに対する認識が低く、社内説得に苦労しているCSR担当が多い」という悩みが会場から出ると、第一三共の畠山氏は、「日々の努力が大事。SDGsやESGに関する報告を経営陣に日々行うことで、経営陣の理解が深まる。経営陣や色んな部署とコミュニケーションをする中で、SDGsやESGというワードを入れていく。」とコメント。

最後に、パネリストから聴衆に向けてメッセージ。
第一三共・畠山氏
  • 投資家とのESG対話は敷居が高いと思っているかもしれないが、まずはやってみてほしい。一度実施すると今後につながる。私たちは面談結果を統合報告書に生かそうとしている。
クボタ・森田氏
  • 今回面談した機関投資家2社は、私たちのCSR報告書などの発行媒体を非常に細かく読み込んでおられた。企業理解のための工夫がすごいと感じた。面談によって投資家と企業のギャップを理解できたので、ギャップを埋めるために対話をすることが重要だと実感。
りそな銀行・松原氏
  • ESGは間接金融にも広がってきている。間接金融の銀行も含む大きな金融の分野でESGが大事になってくる。

三井住友アセットマネジメント・齊藤氏
  • ESG投資は額としてはまだまだ伸びていくだろう。私たちはそれを信じて様々なプロダクトを開発している。投資家としてどうやってリターンを生むESG投資にしていくかを考えている。そのためにも、企業との対話を積極的に行っていきたい。幅広い企業に、このESG対話プラットフォームに参画してほしい。
アセットマネジメントOne・櫻本氏
  • ESGは予想をはるかに超える勢いで市場に進出している。まだ投資家との接点がない企業も多いとはと思うが、自分たちだけで悩まずに、まずはESG対話プラットフォームを使って、投資家と対話をしながら考えていければ。
最後に、環境監査研究会代表幹事の後藤氏は、「ESG投資は欧州ではもちろん、日本でも既に4割を超えた。中長期のシナリオを作るには、TCFDを活用するのが良い方法。ただ、シナリオを作ることと、情報開示をどのように行うかはまた別の問題。TCFDを活用して中長期のシナリオを作りながら、情報開示の努力もしてほしい。」とコメントしました。


ESG投資の最終目標を忘れずにーピタゴラスイッチ

河口真理子氏
閉会挨拶として、大和総研の河口 真理子氏(平成30年度 環境省 環境情報開示基盤整備事業ワーキング・グループ委員)は、シンポジウムの議論を総括しながら、「ESG対話プラットフォームが全上場企業に広まって欲しいし、広める努力が必要。但し、ESGがここまで広まると見失うものもあるのではないか。今から新しい人が入ってくると、複雑すぎて、情報を整理するだけでいっぱいになってしまう。そして、テクニカルな対応に走りすぎて、何のためにESGをやっているか、という根本を忘れる人も出てくるのでは。」と懸念を表しました。

河口氏は、「ESGは持続不可能な成長志向から持続可能な成長へと投資家、企業を促すシグナルである」と言います。そしてそれを「ピタゴラスイッチのようなもの」と例えました。 私たち人間は、ピタゴラスイッチの玉のように、スロープを下りたりバネでぐるぐる回ったりして、情報に振り回されて、どこに向かっているのか見失いそうになりますが、最終的な「持続可能な発展に寄与する」という目的を忘れないでほしい。と河口氏は強調しました。

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