SDGs×デジタルから考える資本主義の未来ー Sansan Innovation Project 2019(2)
2019年3月14日ー15日に開催された「Sansan Innovation Project 2019」の様子をお届けしています。
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・「Sansan Innovation Project 2019」とは?
・「SDGsが日本企業の変革を迫る」セッションのレポート
の記事はこちら
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パネリストは、
まずは、野村マネジメント・スクールの森氏が「デジタルから考える資本主義の未来」として、昨年出版された「デジタル資本主義」でも分析されているデジタル化に伴う外部環境の変化について解説。ポイントは「消費者余剰の拡大」と「自社の強みが見える"aaS"の視点」。
この指標と実感の差が生まれる理由について、森氏は「消費者余剰の拡大」という言葉で説明されました。「消費者余剰」とは、消費者が最大支払っても良いと考える価格と実際の取引価格の差のことです。前者よりも後者(実際の価格)が低いと、消費者はお得感を感じます。
デジタル化での直接取引による仲介手数料の削減などもあり、取引コストは圧倒的に低くなっており、今では無料のデジタルサービスも数多くあります。森氏が日本における無料デジタルサービスから得られる消費者余剰を試算したところ、2015年はGDP比10%に当たる52兆円にものぼるという結果が出たそうです。
森氏は、先月、日経新聞が報じた「LINEの利用価値300万円?GDPに表れぬ豊かさ」にも言及。「いくらもらえたらLINEを1年間やめますか」。東大の学生が卒業論文のために約1200人に質問し、出た結果は「1人当たり300万円」。無料で提供されているサービスですが、300万円の価値を感じているということですね。
例えば自動車製造業の目線では、車という製品ありきで、車の利用用途として運転を捉え、その効能として移動できること、が規定されます。一方、MaaS(Mobility as a Service)の視点にすると、目線が180度逆の利用者からの目線になります。利用者からすれば、安全な移動をするためには、必ずしも自分の車を保有している必要はありません。移動のための最適な選択肢を利用者は選んでいきます。
他にも、
食品業界が提供しているのは?栄養(”NaaS” Nutrition as a Service)
不動産の場合は?住まい(”RaaS" Residence as a Service)
などを紹介したうえで、「自社がどんな強みを持っていて、本当は何をしているのか。aaSはそれらを考える良いきっかけ」とまとめました。
もう一つのSDGsセッション(記事はこちら)でも、国際金融情報センターの玉木理事長が「A sense of Purpose」を紹介。
SDGs以外のセッションでも、横石&Co.代表取締役が「今の時代は価値創造のシフトが起こっている。ProfitからPurposeへのシフト。」と述べておられました。
「aaS」の視点は、現在求められているPurposeドリブンな思考で自社のビジネスを語るということなのでしょう。そうすれば、SDGsの目標をただ自社の事業にマッピングしただけの表面的な取り組みから一歩抜き出せる可能性があります。ESG投資の評価の際に重視される非財務情報、ストーリーとしても機能するように思われます。
中神氏は、経営コンサルティング業界で企業の経営進化に長らく取り組んでおられましたが、コンサルティングを経て企業が変わると、企業価値が向上して株価も上昇するという現象を目の当たりにしたことから、みさき投信を立ち上げられ、投資先の経営陣と共に「働く」新しい投資モデルを実践していらっしゃいます。
数多くの企業を見てきた中神氏が挙げる、長期的に企業価値を上げ続けられる企業のポイントは?
中神氏が、「投資家は世界中の優れた会社を見ているので、ナレッジがある。投資家と対話して、自分たちがどこを改善すればいいのかを聞いてみて欲しい。」と述べると、モデレーターの安井氏も、「世界中の優れた会社の知見を持つ投資家との対話によって企業が知見を得て、サステナブルな経営を行う。これがコーポレートガバナンスの本質。戦後、日本企業が成長したのは、企業経営の規律付けを銀行がやっていたから。今や投資家がかつての銀行の代わり。投資家の知見が企業の規律付けになって欲しい。今回のセッションの目的はそこにある。」とコメントしました。
そのあとは、3つのテーマで議論が進みます。
(1)デジタル社会における企業経営上の脅威ーデジタル化の負の側面への対処の仕方
(2)デジタル社会における企業の社会的課題の解決ーデジタル化のポジティブな活かし方と社会課題の解決
(3)デジタル社会が進行する中、SDGsの要請も受ける時代の、企業の経営者のリーダーシップのあり方
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Sansan Innovation Project 2019(1)
「SDGsが日本企業の変革を迫る」セッションのレポートはこちら
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・「Sansan Innovation Project 2019」とは?
・「SDGsが日本企業の変革を迫る」セッションのレポート
の記事はこちら
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セッション2 SDGs×デジタルから考える資本主義の未来
企業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)への対応が急がれている中、実はデジタル技術の進展により資本主義システムそのものも変容している?新しい資本主義システムで企業が生き残るには?本セッションでは、デジタル化に伴う外部環境変化と、投資家から見た生き残る企業について、第一線で活躍される方からお話を伺うことができました。パネリストは、
- デジタル技術の進展による資本主義システムの変容を分析した「デジタル資本主義」(東洋経済新報社)の共著者の一人である野村マネジメント・スクール上級研究員の森健氏
- 「モノ言う株主」のアンチテーゼとして「働く株主」というコンセプトを掲げ、投資先企業の価値向上と投資家への高いリターンを実現させているみさき投信代表取締役社長の中神康議氏
まずは、野村マネジメント・スクールの森氏が「デジタルから考える資本主義の未来」として、昨年出版された「デジタル資本主義」でも分析されているデジタル化に伴う外部環境の変化について解説。ポイントは「消費者余剰の拡大」と「自社の強みが見える"aaS"の視点」。
消費者余剰の拡大ー300万円の利用価値があるLINEアプリ
世界GDP成長率はご存知のとおり低下傾向にあり、日本では賃金水準も伸び悩んでいる状況です。ところが、主観的な生活レベル(自分の生活レベルは高いと思うか)については、年々向上しているとのこと。野村総合研究所「生活者1万人アンケート調査」の結果を説明する森氏 |
この指標と実感の差が生まれる理由について、森氏は「消費者余剰の拡大」という言葉で説明されました。「消費者余剰」とは、消費者が最大支払っても良いと考える価格と実際の取引価格の差のことです。前者よりも後者(実際の価格)が低いと、消費者はお得感を感じます。
デジタル化での直接取引による仲介手数料の削減などもあり、取引コストは圧倒的に低くなっており、今では無料のデジタルサービスも数多くあります。森氏が日本における無料デジタルサービスから得られる消費者余剰を試算したところ、2015年はGDP比10%に当たる52兆円にものぼるという結果が出たそうです。
森氏は、先月、日経新聞が報じた「LINEの利用価値300万円?GDPに表れぬ豊かさ」にも言及。「いくらもらえたらLINEを1年間やめますか」。東大の学生が卒業論文のために約1200人に質問し、出た結果は「1人当たり300万円」。無料で提供されているサービスですが、300万円の価値を感じているということですね。
自社の強みが見える"aaS"の視点
「生産者ではなく利用者目線で事業の再定義が必要」ということで、森氏は「aaS」の視点を提案。例えば自動車製造業の目線では、車という製品ありきで、車の利用用途として運転を捉え、その効能として移動できること、が規定されます。一方、MaaS(Mobility as a Service)の視点にすると、目線が180度逆の利用者からの目線になります。利用者からすれば、安全な移動をするためには、必ずしも自分の車を保有している必要はありません。移動のための最適な選択肢を利用者は選んでいきます。
他にも、
食品業界が提供しているのは?栄養(”NaaS” Nutrition as a Service)
不動産の場合は?住まい(”RaaS" Residence as a Service)
などを紹介したうえで、「自社がどんな強みを持っていて、本当は何をしているのか。aaSはそれらを考える良いきっかけ」とまとめました。
aaSの視点を提案する森氏 |
もう一つのSDGsセッション(記事はこちら)でも、国際金融情報センターの玉木理事長が「A sense of Purpose」を紹介。
SDGs以外のセッションでも、横石&Co.代表取締役が「今の時代は価値創造のシフトが起こっている。ProfitからPurposeへのシフト。」と述べておられました。
「aaS」の視点は、現在求められているPurposeドリブンな思考で自社のビジネスを語るということなのでしょう。そうすれば、SDGsの目標をただ自社の事業にマッピングしただけの表面的な取り組みから一歩抜き出せる可能性があります。ESG投資の評価の際に重視される非財務情報、ストーリーとしても機能するように思われます。
サステナブル経営に貢献する投資家の知見
続いて、みさき投信の中神氏。中神氏は、経営コンサルティング業界で企業の経営進化に長らく取り組んでおられましたが、コンサルティングを経て企業が変わると、企業価値が向上して株価も上昇するという現象を目の当たりにしたことから、みさき投信を立ち上げられ、投資先の経営陣と共に「働く」新しい投資モデルを実践していらっしゃいます。
数多くの企業を見てきた中神氏が挙げる、長期的に企業価値を上げ続けられる企業のポイントは?
- まず「Business(事業)が優れているか?」特に、独特の強みに根差した「障壁」を築いているかがポイント。良いアイデアであっても、成功し始めるとどんどん他社が参入してきます。その時に他社が越えられない高い壁をどのくらい築けているかが大事になってくるとのこと。
- 次に「People(ヒト)に賭けられるか?」
経営リーダーやマネジメント層に厚みがあるかなどがポイント。中神氏曰く、この部分がSDGsやESGとして現れるそうです。 - そして最も重要なのは「Management (経営)は変わるのか?」
日本の会社は、BusinessもPeopleも優れている会社が多いけれど、ではなぜ日本の企業の価値が低いのかといえば、Management の部分、つまり専門性が弱いからではないかと中神氏。専門性の確立が大きなポイントとなるようです。
みさき投信 中神氏 |
そのあとは、3つのテーマで議論が進みます。
(1)デジタル社会における企業経営上の脅威ーデジタル化の負の側面への対処の仕方
(2)デジタル社会における企業の社会的課題の解決ーデジタル化のポジティブな活かし方と社会課題の解決
(3)デジタル社会が進行する中、SDGsの要請も受ける時代の、企業の経営者のリーダーシップのあり方
(1)デジタル社会における企業経営上の脅威ーデジタル化の負の側面への対処の仕方
<野村マネジメント・スクール 森氏>
- 現在流布しているDigital Disruptionという言葉は、同一産業内でのイメージが強い。でも、現実はメルトアウトのほうが脅威。産業が溶け出している。従来の事業をやっている企業からすれば、(同一産業ではなく)どこから競争相手がくるか分からない状況が脅威となっている。「aaS」の議論をするにあたって、本当に自社の強みは何なのだろう?を突き詰めるのがまず一歩。突き詰めて考えておかないと、メルトアウトしたときに何も残らなくなってしまう。
<モデレーター 安井氏>
- 産業の垣根がなくなっていくことがデジタルの本質の一つ。ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は「これからは情報産業とサービス業だけになる。小売業もなくなる」と述べていた。(日本経済新聞。2019年1月13日付。)某銀行の売上が急落したが、FinTechが進むと店舗がいらなくなるので、既存店舗の固定資産償却に動いているのではと予想。メルトダウンが起こって新しい会社が出てきたら、既存の会社はそれに対応しないといけない。
<みさき投信 中神氏>
- 最もディスラプションされやすい業界は、我々資産運用業界ではないだろうか。情報を分析して売り買いしているので、情報がどんどんデジタル化していって、AI分析が主流になれば、機関投資家は立ち行かなくなるだろう。みさき投信が勝つには?最も情報に乗りにくい、デジタル化されにくいものは何か?を突き詰めると、Peopleに辿り着く。工場の人が、現場の人がどう動いていて、どのように改善しているかというもの。(長期的に企業価値を上げ続けられる企業のポイントで挙げた)Business・People・Managementの中で、Businessはデジタル化できるけどPeople、すなわち人間の頭の中、経営者の思想信条・思考の癖はデジタル化できない。そこに賭ける。
<モデレーター 安井氏>
- ディスラプションが起こっても、想像力や知恵など人間の頭の中にあるものは残る(取って代わられない)。AIは統計学に依拠している、つまり過去の統計の結果に依拠しているということ。環境自体が変わってきている時に、過去の統計結果は参考にならない。人間の想像力や知恵に活路がある。
(2)デジタル社会における企業の社会的課題の解決ーデジタル化のポジティブな活かし方と社会課題の解決
<野村マネジメント・スクール 森氏>
- 社会の指標がもう一つあってもいいのでは。例えば、世界銀行では、ウェルス・アカウンティング(富の会計)といって、各国が保有する資本を、機械や建物などの物理的なものだけでなく、人的資本や自然資本にまで拡大して金銭評価しようと試みている。GDPが企業の損益計算書における利益評価のようなものだとすれば、ウェルス・アカウンティングは貸借対照表の資産評価だと言える。そして、GDPとウェルス・アカウンティングの両方が整備されれば、企業のROA(資産収益率)分析のように、フローとストックの指標を組み合わせた立体的な分析が可能となる。あるいは、アマルティア・センの「Capability approach(潜在能力アプローチ)」は「人間が何が出来るようになるか」を中心に置くもので、デジタル時代と相性がいいのでは。「aaS」は、ユーザーのCapabilityを高めるサービス。高齢者のMobilityを高めるなど(=高齢者が安全・自由に移動できるようになる)。Capabilityのインデックスを社会性の指標として入れたらいいのでは。
<モデレーター 安井氏>
- SDGsは自分探しの旅。なぜ自社(のサービス、製品)が世の中に受け入れられたのかを確認する指標になりうる。
<みさき投信 中神氏>
- (安井氏が長期投資に望ましいデジタル化の向き合い方を聞くと)新技術に対してオープンであってほしい。但し一方で、冷静になってほしい。新技術は使いこなすのが時間かかるし、苦労する。熱い会社はどんどん新しいものを取り入れていくが、苦労して一番最初に新技術を取り入れたことが、本当に競争力になるのか。「枯れた技術」を使って自分たちができることを真剣にやるのもありではないか。自社の強みで「障壁」を築いていくほうが結果として勝てる場合もある。新技術はいつか普及するので、その時に取り入れてもいい場合もある。
盛り上がるディスカッション |
(3)デジタル社会が進行する中、SDGsの要請も受ける時代の、企業の経営者のリーダーシップのあり方
<野村マネジメント・スクール 森氏>
- とにかく「人」が大事。デジタルだと差別化できない。最後に差別化出来るのは経営者や社員という「人」の部分。最近のハーバード・ビジネス・スクールは、人間を中心にした事例を扱うことが増えている。Purpose重視の差別化戦略。
<みさき投信 中神氏>
- BetterよりDifferent。新しい動きに一歩でも先に出ようと思い出す。でもベターくらいじゃ意味ない。ベターはすぐ追いつかれる。
- 機会事業より障壁事業。すべてのビジネスはこの2つに分かれる。生まれる機会をどんどん取っていく機会事業か、自社の強みで障壁をどんどん高く築く障壁事業か。
- VirtualよりもPsychical。自分の強みがどこにあるのか。Virtualを一生懸命分析しても障壁が作れない。Psychicalな部分が障壁、強みになっていく。
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Sansan Innovation Project 2019(1)
「SDGsが日本企業の変革を迫る」セッションのレポートはこちら
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