SDGsは企業価値向上に役立つのか
「丸の内を歩けばSDGsバッジが光る」と言われる程、証券業界でSDGsが普及してきました。そんな中、6月に開催された日本価値創造ERM学会では、「SDGsは企業価値向上に役立つのか?-ESG投資から見たSDGsの意義-」というテーマで、機関投資家、IRコンサルタント、事業会社、アカデミアなどが議論を繰り広げました。
まず、「ESG投資から見たSDGsの意義」と題して加藤康之氏(日本価値創造ERM学会会長、首都大学東京特任教授、京都大学客員教授)が講演。
また、ESG投資手法としては、①超過リターンを追求する「ESGアクティブ運用」と②市場の持続的なリターンを追求する「ESGノンアクティブ運用」の2つに分けられると説明しました。その際、①「ESGアクティブ運用」については、超過リターンで評価し、なぜ超過リターンが出るのかを運用機関がきちんと示すべきではないか、そして②「ESGノンアクティブ運用」は、実際にどの程度の社会的インパクトを生み出したかの社会的リターンを測り、その実績で評価すべきと言います。
その社会的リターンの評価にSDGsが活用できるのでは?と提案する加藤氏は、ケンブリッジ大学が提案する各企業の社会的リターンを6つのSDGs分類で直接測定する方法や、FTSEによるSDGsとESG評価情報のマッピング、MSCIが考案したSDGsのアウトカム(SDGs売上高)を測定する方法などを次々紹介していきました。
続いて、パネルディスカッションに移ります。
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【パネリスト】
鈴木勘一郎氏 立命館アジア太平洋大学 国際経営学部教授
土屋大輔氏 KPMGあずさ監査法人 アドバイザリー本部グローバル財務マネジメント ディレクター
松永洋幸氏 UBSアセット・マネジメント 執行役員・運用本部長・株式運用部長 マネージングディレクター
松古樹美氏 オムロン株式会社 サステナビリティ推進室エンゲージメント推進部長
まず各パネリストが自己紹介も兼ねて自社の取り組みについて説明。
オムロンの松古氏は、同社が中期経営計画VG2.0でサステナビリティ取り組みを事業戦略に統合したこと、サステナビリティ目標設定の考え方として定量/定性の目標とKPIを設定していること、社会的課題の特定や自社の取り組みの社会的価値を確認するためにSDGsを活用していることなどを説明しました。
続いて、UBSアセット・マネジメントの松永氏は、サステナブル投資への関心が高い欧州をリードする運用会社として20年超に亘る取り組みの歴史があることに触れ、サステナビリティ重視型の投資やインパクト投資など、投資家のニーズに応じた手法でサステナブルな投資を提供している点を強調しました。
KPMGあずさ監査法人の土屋氏は、企業が一生懸命にSDGsやESGに取り組んでも、企業価値に結びつけらなければ投資家には伝わらない、と問題提起をし、ESGを資本生産性と結びつけて整理・発信することで(例えばリスクの低減に寄与するマテリアリティなのか、あるいは中長期的な成長期待の醸成に寄与するマテリアリティなのか等)、企業価値との関連性が明確になり、企業価値についての説明力を高めることができると述べました。
立命館アジア太平洋大学の鈴木氏は、アメリカで大きなムーブメントになっている社会的課題解決に向けた「B Corp」活動について紹介しました。「B Corp」は、環境社会に配慮した事業活動を行い、アカウンタビリティや透明性などの基準を満たした企業に対して与えられる民間の認証制度です。様々な観点での細かい質問に答えていくことで数値化されます。利益のみならず、社会的価値も同時に追い求めていくことが特徴であると鈴木氏は説明しました。
社会的リターンの評価はどのようにして可能か?
その後、加藤氏がモデレーターとなり、議論が進みます。まずは社会的リターンの評価について。
UBSアセット・マネジメントの松永氏は、「欧州では、経済成長の持続性を高めることがいいという社会的合意がある。キリスト教の倫理が根底にあり、ユーザーのニーズもそこにある。一方、日本はリターンの話から入るので、土台が全く異なる。」と説明。
また、ESG投資の広がりについて、「過去3年間ほどで、ESG投資の残高が積みあがってきた。理由としては、①気候変動問題の深刻性を前に、社会全体として、アセットオーナーとして何かしないといけないという意識が芽生えたため。また、②ESG投資の実証研究が進んできて、ESG投資は少なくとも経済的リターン追求にマイナスにはならないというコンセンサスができたため。当社では、ESG投資が経済的リターン追及にプラスになるという研究結果も出ているが、全体として少なくともリターンを犠牲にしないということが分かってきた。運用機関側でも、リターンを犠牲にしないような運用の仕方が開発されてきている」と述べました。
」と述べ、社会的課題と向き合って事業を進める事業会社と、公開情報をもとに評価を行う格付とのギャップを感じさせました。
KPMGあずさ監査法人の土屋氏は、「社会的な要請に応えられない企業は自然と淘汰されていくのが市場の原理。資本コストだけを見ればいい、という延長戦上には、自社が抱えるリスクは短期・中期・長期で何かを突き詰めるべきという考えがある。様々なステークホルダーの資源配分という観点での経営が出来ていれば、結局その企業は持続する。おそらくそれが社会的リターンというものにつながっていくのでは。
市場で生き残りたいのであれば、様々なステークホルダーとの関係性を見て、持続性を考えないといけない。SDGsはただのヒント。事業を取り巻く環境やリスクは何か、これらをどのようなスパンで考えてどのように対処するか。」
これに対し、モデレーターの加藤氏は「市場を効率的と考えれば、正しい考え方かもしれない。但し、外部性という短期利益追求が環境破壊につながるとも言えないか。」と反論。
すると、KPMGあずさ監査法人の土屋氏は、「時間軸の捉え方の問題。短期利益追求による環境破壊は、持続的ではないということ。SDGsが出てきているというのは、時間軸を長期的にみないとダメですよということ。外部性、環境の変化が変わってきているから、企業は変わっていかないといけない。」と説明しました。
それでは、B Corpの測定方法は?
立命館アジア太平洋大学の鈴木氏は、「社会的リターンが長期的な経済的リターンにどう反映されていくのか、実際に測るのは大変難しいと思う。」と前置きした上で、B Corpの認証の際に使われる評価システム「B Impact Assessment」について説明。
モデレーターの加藤氏が、「アメリカは市場原理主義なのに、そこでB Corpのような動きが出てきているのは興味深い。何がB Corpを申請するモチベーションになっているのか?金儲けだけでない、社会的活動への情熱がそこにあるのか?」と質問すると、
ESG投資に求められる社会的リターンの評価
まず、「ESG投資から見たSDGsの意義」と題して加藤康之氏(日本価値創造ERM学会会長、首都大学東京特任教授、京都大学客員教授)が講演。
また、ESG投資手法としては、①超過リターンを追求する「ESGアクティブ運用」と②市場の持続的なリターンを追求する「ESGノンアクティブ運用」の2つに分けられると説明しました。その際、①「ESGアクティブ運用」については、超過リターンで評価し、なぜ超過リターンが出るのかを運用機関がきちんと示すべきではないか、そして②「ESGノンアクティブ運用」は、実際にどの程度の社会的インパクトを生み出したかの社会的リターンを測り、その実績で評価すべきと言います。
その社会的リターンの評価にSDGsが活用できるのでは?と提案する加藤氏は、ケンブリッジ大学が提案する各企業の社会的リターンを6つのSDGs分類で直接測定する方法や、FTSEによるSDGsとESG評価情報のマッピング、MSCIが考案したSDGsのアウトカム(SDGs売上高)を測定する方法などを次々紹介していきました。
MSCIによるSDG売上高のマッピングと気候変動分野の詳細 出典:MSCI, 2016, "TOWARD SUSTAINABLE IMPACT THROUGH PUBLIC MARKETS " |
続いて、パネルディスカッションに移ります。
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【パネリスト】
鈴木勘一郎氏 立命館アジア太平洋大学 国際経営学部教授
土屋大輔氏 KPMGあずさ監査法人 アドバイザリー本部グローバル財務マネジメント ディレクター
松永洋幸氏 UBSアセット・マネジメント 執行役員・運用本部長・株式運用部長 マネージングディレクター
松古樹美氏 オムロン株式会社 サステナビリティ推進室エンゲージメント推進部長
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まず各パネリストが自己紹介も兼ねて自社の取り組みについて説明。
オムロンの松古氏は、同社が中期経営計画VG2.0でサステナビリティ取り組みを事業戦略に統合したこと、サステナビリティ目標設定の考え方として定量/定性の目標とKPIを設定していること、社会的課題の特定や自社の取り組みの社会的価値を確認するためにSDGsを活用していることなどを説明しました。
続いて、UBSアセット・マネジメントの松永氏は、サステナブル投資への関心が高い欧州をリードする運用会社として20年超に亘る取り組みの歴史があることに触れ、サステナビリティ重視型の投資やインパクト投資など、投資家のニーズに応じた手法でサステナブルな投資を提供している点を強調しました。
松永洋幸氏 |
KPMGあずさ監査法人の土屋氏は、企業が一生懸命にSDGsやESGに取り組んでも、企業価値に結びつけらなければ投資家には伝わらない、と問題提起をし、ESGを資本生産性と結びつけて整理・発信することで(例えばリスクの低減に寄与するマテリアリティなのか、あるいは中長期的な成長期待の醸成に寄与するマテリアリティなのか等)、企業価値との関連性が明確になり、企業価値についての説明力を高めることができると述べました。
立命館アジア太平洋大学の鈴木氏は、アメリカで大きなムーブメントになっている社会的課題解決に向けた「B Corp」活動について紹介しました。「B Corp」は、環境社会に配慮した事業活動を行い、アカウンタビリティや透明性などの基準を満たした企業に対して与えられる民間の認証制度です。様々な観点での細かい質問に答えていくことで数値化されます。利益のみならず、社会的価値も同時に追い求めていくことが特徴であると鈴木氏は説明しました。
社会的リターンの評価はどのようにして可能か?
その後、加藤氏がモデレーターとなり、議論が進みます。まずは社会的リターンの評価について。
UBSアセット・マネジメントの松永氏は、「欧州では、経済成長の持続性を高めることがいいという社会的合意がある。キリスト教の倫理が根底にあり、ユーザーのニーズもそこにある。一方、日本はリターンの話から入るので、土台が全く異なる。」と説明。
また、ESG投資の広がりについて、「過去3年間ほどで、ESG投資の残高が積みあがってきた。理由としては、①気候変動問題の深刻性を前に、社会全体として、アセットオーナーとして何かしないといけないという意識が芽生えたため。また、②ESG投資の実証研究が進んできて、ESG投資は少なくとも経済的リターン追求にマイナスにはならないというコンセンサスができたため。当社では、ESG投資が経済的リターン追及にプラスになるという研究結果も出ているが、全体として少なくともリターンを犠牲にしないということが分かってきた。運用機関側でも、リターンを犠牲にしないような運用の仕方が開発されてきている」と述べました。
モデレーターの加藤氏が、「企業にとっては、社会的リターン、社会的価値をどう位置付けているのか?」と聞くと、オムロンの松古氏は、「ESG投資が盛り上がれば盛り上がるほど、社会的リターンと経済的リターンが両立しうるか、という議論になってくるが、企業としては、投資家に、社会的リターンが経済的リターンにつながっていくとの企業の思いを腹落ちさせるのが難しい。どのように表現すれば皆様に伝わるのかがはっきりしない。」と本音を吐露。
松古樹美氏 |
加藤氏が冒頭の講演で触れたMSCIのSDGs売り上げについても、「どういった試算をしているかが見えない。オムロンのSDGs項目に貢献するサステナビリティ目標は、売上高に直接的あるいは間接的につながっているが、そのものズバリでない。SDGsの169の定量目標に直接貢献するものにしているわけではないため、どこをどのように評価されているのか知りたい)
KPMGあずさ監査法人の土屋氏は、「社会的な要請に応えられない企業は自然と淘汰されていくのが市場の原理。資本コストだけを見ればいい、という延長戦上には、自社が抱えるリスクは短期・中期・長期で何かを突き詰めるべきという考えがある。様々なステークホルダーの資源配分という観点での経営が出来ていれば、結局その企業は持続する。おそらくそれが社会的リターンというものにつながっていくのでは。
市場で生き残りたいのであれば、様々なステークホルダーとの関係性を見て、持続性を考えないといけない。SDGsはただのヒント。事業を取り巻く環境やリスクは何か、これらをどのようなスパンで考えてどのように対処するか。」
これに対し、モデレーターの加藤氏は「市場を効率的と考えれば、正しい考え方かもしれない。但し、外部性という短期利益追求が環境破壊につながるとも言えないか。」と反論。
すると、KPMGあずさ監査法人の土屋氏は、「時間軸の捉え方の問題。短期利益追求による環境破壊は、持続的ではないということ。SDGsが出てきているというのは、時間軸を長期的にみないとダメですよということ。外部性、環境の変化が変わってきているから、企業は変わっていかないといけない。」と説明しました。
それでは、B Corpの測定方法は?
立命館アジア太平洋大学の鈴木氏は、「社会的リターンが長期的な経済的リターンにどう反映されていくのか、実際に測るのは大変難しいと思う。」と前置きした上で、B Corpの認証の際に使われる評価システム「B Impact Assessment」について説明。
「評価は形式基準。例えばClean House Gasをどれくらい出しているかと質問される。この数値がすぐに出せる企業はほぼない。推定値として、全事業所での電気使用量を集めたり、地域の電気効率を調べて試算するという方法をとっている。これに答えた後、審査があり、エビデンスが求められるので、適当な試算で回答出来ない仕組みになっている。」
また、B Corpに関する研究で明らかになっていることとして、
- B Corp認証を受けた企業は、業界内の他の上場企業よりもパフォーマンス(売上成長率)が高い。
- 上場企業よりも未上場企業が多い、女性起業家が多い。
- 経営改善を行って、年々スコアを上げる企業が多い。
鈴木勘一郎氏 |
立命館アジア太平洋大学の鈴木氏は、「いいことをやる(Do for Good)というのがモチベーション。環境、コミュニティ、従業員、顧客など膨大な質問に答えることで、どの辺りが評価ポイントなのかが分かる仕組み。だから認証取得に拘わらず、自社に足りない取り組み、より必要とされる取り組みを理解でき、その観点で自分たちのビジネスを改善していくサイクルが出来る。申請はとても大変だが、その過程で、社内のモチベーションや経営の質を高めるための努力をしている。この結果として企業価値が上がり、社会的リターンが高まるという側面がある。」とB Corpの評価システムとそこから生まれる好循環について説明しました。
SDGsは企業価値向上に役立つのか?
モデレーターの加藤氏が、「SDGsは企業経営にとってどんな意味があるのか?どう使って企業価値を高めていくのか?」と聞くと、オムロンの松古氏は、「SDGsを分解して、個別の目標やそこから課題を考えていくと、ビジネスを広げるきっかけになる。」と言います。また、包括的なSDGsだから出来ることとして、「各SDGsの相互関連性(SDGsドミノ)を考える。一つのものに取り組むと別のものにマイナスの影響が出ないか。一つのものに取り組むには、別のも一緒にやるほうがインパクトを高められるかという判断が出来る。例えば、ファクトリーオートメーションの領域でAI活用を突き進めると、電力消費が莫大になり、CO2排出に影響が出る、というのを考える観点としてSDGsが使えると考えている。」として、負のインパクトをどう事前に想定したりリスクを軽減したりできるかという観点でのSDGsの活用に言及しました。
では、SDGsを企業経営に役立てるには?
KPMGあずさ監査法人の土屋氏は、「多くの企業は、SDGsを企業価値を高める魔法の言葉のように使っている。でも、SDGsのエッセンスは、企業がとりまく環境が変わってくるのでそのヒントを見つけようというもの。だから、SDGsは直接的に収益機会に結び付けようというものではないと思う。SDGsの目標は国家単位のものが多いので、営利の一企業が立ち向かうのは難しい。ただ、SDGsを使いながら、長期的な環境変化を国家単位でどのように捉えられるか、その環境変化に企業としてどう対応出来るか、というリスクや機会を見つけるヒントとしては使えると思う。」
投資家から見たSDGsとして、UBSアセット・マネジメントの松永氏は、「SDGsは今ある問題を見える化してくれる。混沌とした世界の問題を捨象して見せてくれる点で意義があると言える。」と言います。「投資家としては、長期的に成長する企業に投資したい。ESGファクターは業績予想のボラティリティを低く抑えられる。企業がどれだけ頑健に経営をしているかが測れるもの。また、SDGsは、社会の要請をこの企業が応えているか、を計測する指標になる。自社の事業領域で大きな変化があったときに、柔軟に対応できるかが見える。」とのこと。
最後に、松永氏は自社のインパクト投資について触れます。「インパクト投資の評価は、例えば医薬品を日本と途上国で売るのとでは、どちらが人を助けられるか?という話になる。助かる人間の数が全然違う。医療水準の高い日本では助かる病気でも、途上国では命の危機にさらされる。途上国で売れば、それらの人を救うことができる。
これまでは売り上げにどのようなインパクトがあるか等、財務面のインパクトを見ていたが、最近では、このように、売り上げを超えたインパクトがどれくらい生み出せるかというのを見ている。社会の要請に的確に応えられる企業は価値が上がるという前提でインパクト投資に取り組んでいる。」と述べました。
立場が違えば見方も変わる。但し、ESGやSDGsというワードが出てきたからこそ、異なる立場の人たちが一堂に会して議論できるようになったとしたら、それだけでも価値のあることなのかもしれません。
立場が違えば見方も変わる。但し、ESGやSDGsというワードが出てきたからこそ、異なる立場の人たちが一堂に会して議論できるようになったとしたら、それだけでも価値のあることなのかもしれません。
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