ESG投資とTCFDで輪を広げよう―サステナブル・ブランド国際会議2019東京(1)





201936日―7日、お台場にて「サステナブル・ブランド国際会議2019東京」が開催されました。

サステナブル・ブランド国際会議2019東京」は、現在12か国13都市で開催され、来場者数はグローバルで1.2万人を超える規模となっています。2030年に向けてSDGsSustainable Development Goals(持続可能な開発目標))の機運が高まる中、個々の企業や団体だけでは達成困難なSDGsに対して、組織や企業、世代や国境の枠を越えた交流の場、イノベーションを生み出すプラットフォームとなることを目指しています。
日本で3回目の開催となる「サステナブル・ブランド国際会議2019東京」では、国内外の企業や活動家、専門家など180人以上が登壇し、熱いディスカッションを繰り広げました。

ここからは36日に参加したセッションのレポートをお届けします。


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他セッションの様子はこちら

SDGsの目標18は笑顔?―サステナブル・ブランド国際会議2019東京(2)

・「次世代CSV(価値創造)経営とは何か」セッションのレポート

サステナビリティの精神を体現―サステナブル・ブランド国際会議2019東京(3)

・「SDGs:マッピングの一歩先」セッションのレポート
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セッション1「投資先をリ・デザインするESG」

2日間で唯一「ESG」を冠したセッション。金融庁を筆頭に、ESG投資に関わる以下の方々が登壇されました。
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ファシリテーター
大和総研調査本部研究主幹 河口 真理子氏
パネリスト
MSCI Inc.
 ESGリサーチ エグゼクティブ・ディレクター 鷹羽 美奈子氏
金融庁 国際室 国際室長 池田 賢志氏
ロイドレジスタージャパン株式会社 取締役 冨田 秀実氏
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まず、各パネリストがそれぞれの立場からESG投資について説明。


GRI、IIRC、SASBなど様々な基準があふれるESG界隈ですが、ロイドレジスタージャパン・冨田氏は以下のように整理。
  • GRI(Global Reporting Initiative):多様なステークホルダーをユーザーとし、社会の持続性へのインパクトを重視するもの
  • SASB(Sustainability Accounting Standards Board:米サステナビリティ会計審議会):投資家をユーザーとし、企業の財務的インパクトを重視するもの
  • IIRC(International Integrated Reporting Council:国際統合報告評議会):主に財務資本の提供者をユーザーとし、社会の持続性と企業の財務的インパクトの重視度は上記2つの中間程度
その後、現在、続々と企業が賛同を表明しているTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)に話題を移し、「ESGは非財務情報で評価するが、TCFDは『気候関連財務情報開示タスクフォース』ということで、環境へのインパクトより財務情報を重視している。SASBの環境特化版に近い。」と大変分かりやすく解説されました。

続く金融庁・池田氏からはマクロなお話。
  • スチュワードシップコードとコーポレートガバナンスコードを両輪として企業と投資家の建設的な対話を促すことで企業価値の向上・投資リターンの向上が図られ、日本経済全体の好循環が実現できる
  • 建設的な対話を成り立たせるためには企業の情報開示が大事。投資判断は財務情報だけでなく経営者目線のリスク情報や経営戦略、ビジネスモデルなどの記述情報も重要。TCFDでも、非財務情報を充実させ、十分の開示することで、財務情報につながる
ESG格付けをおこなうMSCI・鷹羽氏は、「自社のESG格付けでは、各産業において最も重要なESG課題についてのみフォーカスする。」と説明したうえで、格付けのためのキーイシューモデルを紹介。インダストリー別にリスクが異なるため、キーイシューもインダストリー別に選定されるとのこと。


本来、私たちは何をすべきか?を考えよう

続いて、ファシリテーターの大和総研・河口氏が、「TCFDの本来のあるべき姿とは?」と問いかけると、「ブーム」「テクニカル」「プライオリティ」などのキーワードが出ました。ブームになっているからとテクニカルな部分だけ気にしてプライオリティを検討せずに飛びつくのは避けたいですね。

ロイドレジスタージャパン・冨田氏

  • TCFDを咀嚼して何が出てくるかがポイント。経営層を交えて議論が出来ているか。日本はブーム化しやすく、TCFDに則ったコンテンツだけ作るような事態になりがち。世界のトレンドを読んで、企業として本来何をやるべきかという大局観を持つべき。
金融庁・池田氏

  • テクニカルで数字が出しやすいところから取り組まれやすい傾向はあるかもしれない。例えば、シナリオは本来企業のレジリエンスを図るために使うべきなのに、どのようなシナリオが受けるか、というところから入りがち。
MSCI・鷹羽氏

  • 限られたキャッシュをより効率的な部分に回した方が良い場合もある。ある産業でTCFDのプライオリティが本当に高いのか、という検討・判断もした方が良いだろう。

TCFDで社内のコミュニケーション活性化

その後、大和総研・河口氏が「現在は、その活動が、本当に社会にインパクトを与えたか(本当に環境が良くなったか、学校に行けるようになったか等)を計測するのが難しい状況にある。評価出来るようにするにはどうしたらよいか?ESGリテラシーも大事。」と問いかけ、パネリストが各々考えを共有。

金融庁・池田氏
  • 利己的な人と利他的な人がいるとして、利己的な人を巻き込むには最終的には自分の元に返ってくるという話にしなくてはいけない。ESG投資に興味を持ってもらうには、ESG投資をしないと損するというのを言えると良いだろう。
ロイドレジスタージャパン・冨田氏

  • この話題はまず社内で議論がかみ合わない。環境系の人と経営企画に携わる人では議論にならない。いくら環境を大切にと言っても、利己的な人に関心がない。TCFDは環境が財務的インパクトを与えるという話なので、このTCFDが、サステナビリティと事業課題を結びつける、これまで議論にならなかった人たちを結びつける糸口になれば。
  • また、長期的なビジョンの議論をすると、サステナビリティを意識せざるを得ない。それは、数十年後には劇的な環境変化が起こっていることが、誰でもわかるから。そのような時間軸での議論も一つの方法。
MSCI・鷹羽氏

  • 投資家がSDGsやESGに興味を持つのは、基本的には自分の資産を守るため。エクイティの投資がメインとなっている。一方、「いくら投資したら何人が救われました」という形のソーシャルインパクト投資も増えていて、アセットクラスを広げていくことに期待。

ファシリテーターの大和総研・河口氏は、要所要所でポイントをまとめておられ、大変分かりやすい、オーディエンスを置き去りにしないファシリテーションでした。最後に、河口氏のコメントをまとめます。

  • ネタはCSR部が持つが、誰向けにどのようなメッセージを打ち出すかを企業の戦略として全社的に考えていかなくてはいけないことになってきた。
  • 昔は数字だけあれば企業価値が出ていたが、今や非財務情報の開示を戦略的に行わないと企業価値が向上できない時代になった。
  • ESGリテラシーが低いとみっともない、損するという世論を作るのが大事かもしれない。今やITリテラシーがないとついていけない、日常生活や仕事で損するのと同様に。
  • TCFDを翻訳ツールとして使うのが良い。現在はサステナビリティ系と経営企画系が分断されているが、サステナビリティを非サステナビリティの世界に持っていくきっかけとしてTCFDが使える。
  • 情報開示への対応をきっかけに社内のコミュニケーションが促進できる。この対応は、良い会社/社会を作っていくためのものであるということを、経営者含め全社員が理解する方向に持っていけたら。

ファシリテーター河口氏の踏み込んだ質問と時折立場を越えて個人的な見解も示すパネリストたちとの掛け合いが大変面白く、難しい議題でしたが楽しい一時となりました。

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他セッションの様子はこちら

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・「次世代CSV(価値創造)経営とは何か」セッションのレポート

サステナビリティの精神を体現―サステナブル・ブランド国際会議2019東京(3)

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