なぜ日本ではESG投資が遅れているのか?ESG投資とリターンの関係性に迫る

4月16日、首都大学東京(丸の内サテライトキャンパス)にて、東京ファイナンスフォーラム第10回研究会「日本におけるESG投資発展のための条件と課題ーなぜ日本ではESG投資が遅れているのか?-」が開催されました。

今回のセミナーでは、「東京金融賞」の審査員を務められた加藤康之氏(首都大学東京特任教授/京都大学特定教授)の講演と、同賞ESG投資部門の受賞企業4社によるパネルディスカッションが行われました。


「東京金融賞」は、「国際金融都市・東京」の柱として東京都が新たに創設した取り組みです。第1回目となる昨年度は、ESG投資の普及に努めた企業など計7社が表彰されました。(表彰式の様子はこちら

東京金融賞表彰式(2019年2月5日開催)


加藤首都大学東京特任教授
まずは、加藤教授が「日本におけるESG投資発展のための条件と課題 -なぜ日本ではESG 投資が遅れているのか?-」と題して講演。冒頭、日本のESG投資が遅れているとは言え、2018年には日本のサステナブル投資残高が23億円に達し、2015年の10倍になったと指摘。

その後、ESG投資をリターンの観点から見て(1)超過リターンを追求する投資方法と(2)市場リターンの維持・向上を目指す投資手法の2つに分類。


(1)超過リターンを追求する投資手法

こちらは、通常の投資と同様に経済的リターンを求めるもので、ESG評価が高くてもパフォーマンスが悪ければ投資をしないという判断もありえるとのこと。ただし、そもそもこれをESG投資と呼ぶのかについては疑問を呈されました。

ESG評価が株価に影響を与えるという研究結果はいくつか出ており、

ESG評価機関の間で統一的な評価軸がなく、ESG評価にばらつきが多い現状の中では、
1)ESG評価が将来高まると予想される銘柄に投資して超過リターンを得る
2)エンゲージメントにより保有企業のESG評価を向上させて超過リターンを得る
このようなアクティブ運用にチャンスがあるのでは、との見解です。

この手法への問題提起として、次の2点を投げかけます。

  • ESG投資が社会的リターンとしての側面が出すぎており、超過リターンをもたらす通常のアクティブ運用として認識されていないのではないか?
  • 実績のある運用期間は、なんとなくESG投資を行うだけではなく、なぜ超過リターンが出るのか、をきちんと明示する必要があるのではないか?
(2)市場リターンの維持・向上を目指す投資手法
こちらは、より長期の視点を持ったもので、社会的リターン(社会・環境等への貢献)に着目します。これは、「社会的リターンは長期的に経済的リターンをもたらす」というESG投資の理念を基本としたものです。投資を通して企業に社会的リターンをもたらすことを誘導します。

この手法への問題提起として、次の3点を投げかけます。

  • 一部投資家は、経済的リターン(超過リターン)を狙う運用ではないことに疑問が生じるのでは?受託者責任に反するのでは、つまり経済的リターンを狙わないことは、受益者の利益を損なうのではないかという疑問があるのでは?
  • 社会的リターンを考慮する投資は政策的であり、投資家は自分たちの仕事ではないと考えているのでは?
  • 社会に良いことをすれば長期的には経済的リターンにつながるという理念に疑問を抱く投資家もいるのでは?
最後に、加藤教授は、ESG評価と社会的リターンのギャップに言及。
ESG投資では、「ESG評価の高い銘柄が高い社会的リターンをもたらす」と考えるのが一般的であるものの、評価機関によってESG評価が大きく異なることもあり、ESG評価の高さとその企業が本当に社会に良いインパクトを出せているかは、明確になっていないと述べられました。
結論として、SDGsを活用するなどして企業活動そのものに注目し、ESG投資の見える化(ESG投資が社会的リターンを生み出すことを示す)に取り組む必要がある。ESG評価が高い銘柄に投資するのではなく、本当に社会に良いことをしている企業を見つけ出すことが、中長期的なリターン獲得のために必要である。と強調されました。

続いて、東京金融賞の受賞企業を迎えたパネルディスカッションに移ります。

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<モデレータ>加藤 康之 氏(首都大学東京特任教授/京都大学特定教授)
<パネリスト>幾嶋 崇 氏(Neuberger Berman East Asia 取締役・投資商品本部長)
       坪田 史郎 氏(Robeco Japan Company 代表取締役社長)
       堀 幸夫 氏(SOMPOホールディングス CSR室課長)
       川添 誠司 氏(三井住友トラスト・アセットマネジメント シニア・
       スチュワードシップ・オフィサー)
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加藤教授と東京金融賞受賞企業
東京金融賞で評価された各社のESGに関する取り組み(出典:東京都Webサイト

各社のESGに関する取り組みの説明の後、モデレータの加藤教授からの質問に4社が回答するという形でパネルディスカッションが進められます。


日本では本当にESG投資が遅れているのか?それはなぜか?
(モデレータ 加藤教授からの質問)
<Neuberger Berman East Asia・幾嶋氏>
  • 日本のESG投資は足元は拡大しているものの、欧米と比べるとまだ拡大の余地がある。歴史が浅いという側面はある。
  • また、日本では、特に欧州と比べると、社会的リターンよりも、経済的リターンにリンクするかという点に焦点があたっていて、まだ浸透が進んでいない一因となっていると感じる。
  • 米国も欧州と比べると、経済的リターンにリンクするかの議論が、受託者責任の観点でESG投資拡大のハードルになっていたが(注)、2015年にESGファクターを考慮した投資が受託者責任に反しないという見解が示され、以降、急速に拡大した経緯あり。日本でもこのようなフレームワーク、共通理解が固まれば急速に浸透する余地があると思う。
  • 現在、日本の投資家からの質問状を分析すると、ESG投資関連の質問は15%程度。欧米の投資家からでは40%程度になる。これを見ても、日本の投資家が欧米投資家と比べるとESG投資の関心が低いことが分かる。但し、2017年は5%程しかなかったことを考えると、急速に拡大していることが分かる。
    (注)米国では、
    従業員退職所得保障法(ERISA(エリサ)法で受託者責任の順守が厳しく求められており、ERISA法での「投資リターン以外の社会的な便益を目的とESG投資は受託者責任に反する」との見方がESG投資の障害となっていると言われていた。
<Robeco Japan Company・坪田氏>
  • 世界全体でみれば日本はまだ少ないが、伸び率をみると加速度的に伸びてきている。
  • 日本でESG投資が急速に伸びだしたきっかけは、スチュアードシップコード/コーポレートガバナンスコードの制定と、アセットオーナーであるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESG投資を始めたこと。どこの国でも、ESG投資普及の大きなきっかけは、政府の規制・法律の制定とそれに伴いアセットオーナーが動いていくことであった。
  • サステナビリティ投資資産の割合推移(下図)をみると、日本は2014年は単体でのデータがないくらい小さかったが、急速に伸びていることが分かる。
全運用資産に対するサステナビリティ投資資産の割合 2014-2018年
(注:2014年の日本のデータはアジア全体に算入されて報告されていたため、当該情報は抽出不可)

Robeco Japan Companyの坪田氏の話で興味深かったのは、統計上、欧州のESG投資は減ってきているということ。これは、欧州でのサステナブル投資の概念がどんどん厳格化されてきているため。多くの企業がESGに対応するようになると、見せかけのESG対応なるものも出てきますが、当局によって基準が厳格化され、サステナブル投資に該当するかどうかのハードルが高くなっているとの説明がありました。
すかさず加藤教授は、米国でも、昨年、ERISA法で、ESG投資の解釈が再度改訂されたことに触れ、世の中的には厳格化のトーンになっているのかもしれないとコメントしました。

<SOMPOホールディングス・堀氏>
  • TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)のシナリオ分析や情報開示の在り方を欧州の保険業界と議論しているが、欧州では、金融が事業に対して影響を与えられるという意識が強いと感じる。日本では、近江商人の三方良しのように、事業の中で社会への配慮を行うという気風が元々あったため、金融の力を使ってさらに動かしていくという発想になりにくい文化的背景があると思う。
  • また、議論を主導したい、自分たちが作った基準を使って、金融という枠組みでグローバルな世界で主導権を握りたいという、政治的な思惑が非常に強い。
  • 日本の金融機関として、国家間の主導権争いや駆け引きなどの文脈も踏まえながら、ESG投資や保険提供などの金融機能のあり方を戦略的に考えていく必要がある。
<三井住友トラスト・アセットマネジメント・川添氏>
  • 2006年にPRIが始まったことが大きな流れを生んだ。PRIの特徴は、シェアホルダー型とステークホルダー型のエンゲージメントを統合しているということ。これが今のESG投資の原型だと思っている。
  • 日本では、PRI/ESGのルール作りが始まったのがここ2,3年で、まだ経験値が低い。シェアホルダー型とステークホルダー型のルール作りが進んでくると、気候変動問題や水の問題など個々の問題を掘り起こされる「アジェンダマイニング」が始まるだろう。掘り起こされると価値がついて、それがアクティブ運用の源泉になるのではないか
(左から)加藤教授、Neuberger Berman East Asia・幾嶋氏、Robeco Japan Company・坪田氏

ESG投資は本当に長期的リターンに寄与するか?それはなぜか?

<Neuberger Berman East Asia・幾嶋氏>
  • ESG投資はあくまでも超過リターン追求の手段の一つと捉えている。ESG評価の高い企業に投資するだけでは超過リターンは難しい。ESG投資の浸透によってミスプライシングが減っていくから。それよりも、将来的にESG評価が向上する銘柄を見つけてきたり、エンゲージメントを行ってESG評価を上げるような、銘柄選択の目利きのスキルを発揮して、超過リターンを得ていくことが必要で、その点ではアクティブ運用が有効
  • 社会的リターンという側面でも、グローバル投資家の関心を無視できない事態になっている。株主以外のステークホルダーの圧力、変革を求めていくプレッシャーが益々大きくなっている。ESGに取り組まないと、社会的・倫理的な影響だけでなく、実際に株価に影響が出るようになってきている。
加藤教授が、「同社の顧客は超過リターンを求めているのか?とすると、3年で成果が出ないといけないのか?」と聞いたところ、幾嶋氏はYesの回答。ESG投資はあくまでも超過リターンを求める一つの手段であると再度強調しました。しかしその上で、欧米投資家のパフォーマンス評価は日本と比べると長期的スパンであると補足しました。

<Robeco Japan Company・坪田氏>
  • 資産運用会社としてESG投資に取り組む一義的な目標は、超過リターンを出す必要があるから。合わせて、アセットオーナーからの要請に応える形での社会的リターンの追求も行っている。
  • 気候変動や高齢化社会の進展など、地球や社会の変化が、企業の業績や競争力に影響を与えるようになってきた。
  • 我々の分析によれば(下図)、ESGがパフォーマンスにプラスの影響を与えていることが分かっている(この場合はエクスクルージョン(除外))。ESGのどの要因がパフォーマンスに寄与したかをさらに分析すると、たばこ産業の除外が効いている。航空宇宙・防衛産業の除外は、パフォーマンスを下げることもあるが、たばこ産業はパフォーマンス向上に寄与。
2017-2018年のロべコ・グローバル・スターズ株式戦略の超過収益の要因分析(当日資料より)
加藤教授は、「社会的な貢献を顧客が要請してきた場合、ロべコのファンドが超過リターンを生まず、ベンチマークと同じ結果だったとしても、社会的インパクトを与えたことが示せれば、容認されるのか。」と質問。
これに対し、坪田氏は、「ケース・バイ・ケース。例えば、パフォーマンス的には3位だったとしてもESG投資の寄与度が高いという理由で選んでもらえる場合もある。それは、顧客であるアセットオーナーが社会的使命としてESG投資に貢献しなきゃいけないという思いがあり、それが判断軸になる場合。但し、基本的にはESG投資を組み入れていたとしても、パフォーマンスが決定的に悪ければビジネスを失う。」と回答。

<SOMPOホールディングス・堀氏>

  • 投資を受ける側としては、社会的な課題を起点としてビジネスを組み立てていくことが企業の持続可能性を高めるという認識は、日本の経営者には定着していると思う。一方で、事業の持続可能性を投資家に伝える手段や技術が足りないという課題がある。情報開示を進めたり、分析を進めていくことが重要
  • (加藤教授より同社がグリーンボンドに投資する目的を問われ、)正直な話、グリーンボンドだから買っているというよりは、あくまでもリターンを見て買っている。利回りが低くてもグリーンだから買うわけではなく、あくまでもパフォーマンスドリブンでの判断
<三井住友トラスト・アセットマネジメント・川添氏>
  • 運用機関の位置づけが変わってきている。従来の情報ベースの投資ではなく、エンゲージメントによって超過リターンを得るようなプロアクティブな運用が増えてきている。運用業界全体に対して、企業への働きかけによる超過リターンの獲得が求められているように感じる。
  • パッシブ運用でのエンゲージメントは、数が膨大であり、大きな課題については、PRI含め業界全体で協働しながら対応していく方向。
これに対し、加藤教授も、「エンゲージメントが運用機関の新しい方向になっていくと思う」とコメント。
    (左から)SOMPOホールディングス・堀氏、三井住友トラスト・アセットマネジメント・川添氏
日本でESG投資が進展するためには何が必要か?

<Neuberger Berman East Asia・幾嶋氏>

  • ESGファクターがパフォーマンスに与える影響を示すこと。ポジティブな影響にESGがどれくらい寄与しているか、具体的に切り出して示すのが現状は難しい。投資家に対してESG投資の見える化をする必要があると感じている。
<Robeco Japan Company・坪田氏>
  • 政府が規制や法律で方向感を示すこと、また、アセットオーナーによる動きが重要。
  • 企業はトップダウンでないと動けないので、経営者への働きかけや啓蒙も重要。
<SOMPOホールディングス・堀氏>
  • 地方をどのように盛り上げるかも一つの鍵。当社は全国に拠点を持っているため、地域金融機関や大手企業と連携しながら、ESG金融の普及に取り組みたい
<三井住友トラスト・アセットマネジメント・川添氏>
  • SDGsという課題解決の枠組みをうまく活用して、エンゲージメント活動を行っていくことが重要
加藤教授が「さすが東京金融賞の受賞企業」と太鼓判を押した4社。ESG投資について、様々な取り組みを行い、ESG投資の拡大に貢献していることが分かりました。

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