ESG投資から見える資本主義の変革-日経SDGs/ESGサミット2019(1)

2019年5月、品川プリンスホテルにて日経新聞社・日経BP社主催の「日経SDGs/ESG会議」が開催されました。




本会議では、「サステナビリティを考える経営」をテーマに据え、企業、政府や自治体、金融市場など各方面でのSDGs/ESGに関わる取り組みや施策が紹介されました。


中でも長い時間が割かれていたのは、日経ESGプログラムのパネルディスカッション「ESG投資の最新トレンドを議論する」です。


日々ESG投資に触れる証券・資産運用会社のプロが、高崎経済大学の水口教授のコーディネートの下、ESG投資について議論しました。

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<パネリスト>
ゴールドマン・サックス証券 証券部門 株式営業本部 業務推進部長 SDGs/ESG担当
清水 大吾 氏
アムンディ・ジャパン 運用本部  ESGリサーチ部長 近江 静子氏
野村アセットマネジメント 責任投資調査部長 今村 敏之 氏
<コーディネーター>
高崎経済大学経済学部 教授 水口 剛 氏
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冒頭、各社が会社の概要とESG投資の取り組みについて紹介。

ゴールドマン・サックス証券の清水氏は、「資本市場だけでSDGsやESGが解決する話ではない。」とした上で、他パネリストの機関投資家と異なり、投資家と企業の間に入る証券会社の立場として、インベストメントチェーンの構築に寄与していると述べます。同社では、2014年から既に数十回、延べ1400名に対し、セミナーを実施してお金の回し方を教育してきたとのこと。参加者アンケートで「このようなセミナーの繰り返しが世の中を変える」という声があったことを紹介し、「仲間を増やすという地道な活動が大事。それが評価・認識されてきた。」と振り返りました。
清水氏

清水氏は、愛媛県西宇和郡三崎町という小さな町に生まれ、一学年に4人しかいないような小さな小学校で育ったそうです。その田舎町での出自と、現在のSDGsの業務に何か関係はあるか、と水口教授が聞くと、清水氏は、「性善説でものを考えがち。世の中の汚い部分をうまくマネジメントできない。でも、様々な葛藤がある中で、自分なりの形にできてきたように思う。経済のない理想は全く意味がないので、資本市場の番人のような業界で戦いながら、やりたいことをやっていく。」と力強く答えました。


アムンディ・ジャパンの近江氏は、欧州でトップの機関投資家である同社について、運用戦略の4つのうちの一つにESGを据えており、トップのESGコミットメントがある点、PRIからも最高クラスの評価を毎年受けており、その他ESG関連でこれまで多数受賞歴がある点を紹介しました。

同社は、責任投資をする上で、企業の良い部分を引き出すようなWin-winの関係を作り出すことを目指し、独自のレーティングで運用を行っているとのこと。2018年には、最高投資責任者がESGの強化を掲げ、全ての運用にESG評価を組み込むことを目指し、ESGの取り組みを行う企業を応援しながら、ベンチマークを上回るようにポートフォリオを組んでいく方向とのことです。

野村アセットマネジメントの今村氏は、同社の取り組みについて、スチュワードシップコードや海外投資家の関心を汲んで、2014年に責任投資調査部を設立し、投資先企業の持続的成長と企業価値向上と運用パフォーマンスの両立を目指す旨説明。また、「パッシブ運用の拡大が世界の潮流。市場全体の底上げが我々の命題。一社が成長すればよいという問題ではない。」と強調しました。更に、同社の投資スタンスとしては、持続的な企業価値向上を通じた投資リターンを取りに行くもので、「ESGは一つの要素でしかないため、事業戦略・財務戦略を絡めながら、全体で企業価値を上げていく」と述べました。最後に、「インベストメントチェーンをどう回していくか、好循環を得られるかは常に配慮している。資産運用会社として投資資金の好循環を創出しながら、事業会社として社会に直接インパクトを与えたい。」とコメントしました。


コーディネーター 水口教授

続いて、パネルディスカッションに移り、水口教授が3つの質問をパネリストに投げかけました。

(1)ESG投資をめぐる国際的な動向は?今後国際的な流れはどうなるのか?日本のESG投資にどのような影響を与えるか?
(2)日本の企業はどのように対応したらよいか?
(3)日本の個人投資家にどのような選択肢があるか?

(1)ESG投資をめぐる国際的な動向


IPCCが1.5℃特別報告書を発表したり、オックスファムが2018年1月に経済的不平等に関するレポートを発表するなどの動きがあり、ESG投資はそれ一つの塊があるわけではなく、EやSなどそれぞれのイシューがある。欧州委員会が、ESGにまつわるガイドライン制定に取り組んでおり、国際的な動向は?今後の流れは?

アムンディ・ジャパン 近江氏
  • 近江氏
    欧州で制度化の動きが生まれる理由は、ESGを考慮しないと、顧客に選ばれなくなってきたから。責任投資に対する要求が高まってきた。企業が適切に情報開示をしてくれないと、投資家として選ぶことができない。企業の情報開示がすべてのスタート。責任投資についても待ったなし。必要なものとして、制度化の動きが出てきている。
  • (政府(欧州委員会)が動くということは、ヨーロッパの国民が、世論がそういう思いだということか?と水口教授が聞くと、)アムンディの本社があるフランスでは、個人投資家の3分の2が環境社会投資を好む。お金の向け先や世の中に与えるインパクトに対する問題意識が高い。
ゴールドマン・サックス証券 清水氏

  • ESG投資を語る際に、地域や文化によって、定義が異なる。
  • ゴールドマン・サックスはアメリカの会社。アメリカでは、株主目線でのビジネスが根付いてきた。社員を切っても環境を汚してもROEを上げることを至上命題でやってきた。その結果としてリーマンショックが起こり、方向転換した。
  • 一方で、アメリカは懐の深い国。思慮深いマネージャー層が厚い。国としてパリ協定の脱退を決めた時も、残ると言った企業や自治体もいた。
  • アメリカでは、3年ほど前にはESGという声は聞かれなかった。でも、ここ1年でESGの声が聞こえるようになった。とはいえ、まだら模様の変革期・過渡期にある。投資家は日々変わっていくので、随時アップデートしてIR戦略を立てていかないといけない。
野村アセットマネジメント 今村氏
  • 海外の動きを見ながら、日本としてどう考えていくべきか。と水口教授に問われ、)多面的に考えないといけない。国内の個人投資家、機関投資家、海外の機関投資家の3者と関係があるが、ESGを強調するのはやはり海外の機関投資家が多い。ESGを考慮しないと海外では相手にされなくなってきている。
  • 日本では、GPIFはじめ、アセットオーナーから徐々に広まっている。残るは国内のリテール市場。ここは盛り上がるようで盛り上がっていない。個人投資家にアンケートをすると、ESG投資が必要という人は多いが、実際にESG投資をするかというと、Noという回答が多い。なぜか?
    今村氏
  • その理由として、ESG投資と投資リターンの関係性が不明なことが大きいのではないか。過去にもエコファンドなどのような商品が出てきた時期があったが、半分は既に償還している。時期が早すぎたのも一因かもしれない。
  • 但し、状況は変わってきている。2014年のスチュワードシップコードの導入が特に大きく影響していると思う。他方で、海外は環境社会から入ってきたのに対し、日本はガバナンスから始まっているので、導入当初は混乱もあった。入口がだいぶ違う。少しずつ近づいてきて、これからは中身の勝負になるのでは。
ゴールドマン・サックス証券 清水氏
  • (経営陣のやる気スイッチを入れるためには?と水口教授が質問すると、)一人では無理。経営陣一人の責任でもない。時代背景が違う。右肩上がりの経済成長の成功体験が抜けきれない。一対一で戦ってはだめ。でもじゃんけんみたいなもの。経営者が弱いのはお金の出し手である投資家。それからメディアなどの外部。ゴールドマンは、そのために若手に啓もうしているのもある。子供や孫にSDGsと言われたら意識せざるを得ない。一対一で戦わず、タッグを組むこと。

(2)情報公開への対応

地球温暖化、生物多様性、貧困問題、プラスチックごみ、様々な課題があり、投資家のエンゲージメントもある。ESG指数に入るか入らないかで、企業の将来が決まってくる。そこに入るためには、情報を開示しないといけない。情報開示をするためには、IRCやSASB、GRIなど国際的な基準を汲まないといけない。この状況に日本企業はどのように対応したらよいか?



野村アセットマネジメント 今村氏

  • IRの投入量が少ないのが日本企業の課題。色々なものに少ない人数で対応しているので疲弊する。ESG投資は知らないところで勝手に評価されて、インデックスに入るか入らないが決まってしまう。だから、これはきちんと対応して、こちらは適当に、というのではだめ。情報開示をしっかりやらないと、企業価値にどんどん影響が出てくる。
  • 投資の出発点は情報開示。情報があるから評価される。評価できるから投資ができる。つまり、情報開示(IR)は企業価値向上のための強力なツール。逆に言えば、日本企業はきちんと開示すれば評価されるというポテンシャルがある。

アムンディ・ジャパン 近江氏

  • トップの認識の差もあると思うが、日本企業はばらつきがある。グローバルな企業は海外ともひけをとらないが、その他の企業は諦めているようなところもある。
  • 公開データをもとに評価をしているので、まずは情報開示をしっかりやることが重要。


(3)個人投資家へのアドバイス


欧米では、個人の投資家が、環境社会投資やサステナブルファンドに興味を持つようになってきた。後のリターンも大事だけれど、サステナビリティに考慮して投資したいという動きが個人投資家の中で増えてきた。日本ではどうか?日本の個人投資家は明日から何をすべきか?


ゴールドマン・サックス証券 清水氏
  • お金に自分の名前が書いてあると思って、消費・投資・労働をしよう。自分の名前が書いてあるお金が、ぐるぐる社会で回っていることを考えよう。お金を持っているけど、そのお金は社会を悪くする方向で得たものだとしたら、孫から尊敬されない。
  • どこに投資しようか、その決め手は投資先企業やアセットマネジメント会社の信念・哲学を見ること。有言実行かどうか、ガバナンスが効いているかも見ないといけない。
アムンディ・ジャパン 近江氏
  • 大学の講義で、大学生に投資経験を聞くと、投資経験がほとんどない。ESGの前にまずは投資経験。まずは、自分に力があるということ、お金の使い方によって社会にインパクトを与えらえれるということを知ってほしい。
野村アセットマネジメント 今村氏
  • どこに投資するかで社会の形、未来が変わっていく。どの企業に投資するか。
  • ファンド運用会社として、社会の枠組みを変えて、より豊かな未来に貢献できるようにしていく。
最後に、水口教授が力強いメッセージで締めくくりました。

「ESGを冠したディスカッションを2時間もできるようになった。お客さんもこれだけいる。ESG投資がここまで盛んになったのは、投資リターンを生み出す土壌そのものの変革が起きているからでは。資本主義は今限界にきている。それを資本主義の力でどう立て直せるか。これが出来なければ未来はない。会場のひとりひとりが、未来の資本主義をつくるアクターである。」

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